世界一周!郷土菓子レッスンの旅 in ポルトガル
こんにちは! 2016年から世界の郷土菓子を巡る旅に出た、“旅するパティシエ”鈴木あやです。
目標は、「国と国、人と人とをつなぐスイーツ・ストーリーテラー」になること。世界中で現地の人々から郷土菓子レッスンを受けながら、レシピだけでなく歴史・文化・暮らしと、立体的にその地域の魅力を発信していきます。
前回は、テントゥガル村での、ポルトガルの郷土菓子「パスティシュ・デ・テントゥガル(Pasteis de Tentúgal)」の突撃取材の模様をお伝えしました。
今回はパティスリー「モンテ・カルメロ(MONTE CARMELO)」のシェフ、ホセ・カルロス(Jose Carlos)さんによる郷土菓子レッスンの模様と共に、【ポルトガルの郷土菓子】ストーリーをお届けします!
「パスティシュ・デ・テントゥガル」の郷土菓子レッスン、スタート!
家庭科の授業
まさか、ポルトガル屈指の人気を誇る郷土菓子の誕生の地で、その作り方を教わることができるなんて!…と、興奮を抑えきれぬまま、ついに「パスティシュ・デ・テントゥガル」の調理実習が始まりました♪
パスティシュ・デ・テントゥガルのレシピ
【生地】→ パート・フィロ(Pate Filo)
―材料(一般家庭で作りやすい分量)―
- 薄力粉 …1kg
- 水 …650g
―作り方―
1. 薄力粉に水を少しずつ入れながら合わせる
2. ひとつに丸めて1時間ほど置き、生地を落ち着かせる(乾燥防止のため蓋をしておく)
3. 部屋いっぱいに、生地を薄く広げる
4. 扇風機とガスバーナーで乾燥させる
5. ナイフで扇型にカットする(切れ端も使うので取って置く)
【フィリング】→ ドーシュ・デ・オボシュ(Doce de Ovos)
―材料(一般家庭で作りやすい分量)―
- グラニュー糖 …200g
- 水 …100g
- 卵黄 …120g
- 全卵 …2個分
―作り方―
1. 鍋にグラニュー糖と水を入れ、グラニュー糖がしっかり溶けるまで沸騰させ、シロップにする
2. 卵黄にシロップを混ぜて、鍋に戻す
3. 鍋底を混ぜながら、クリーム状になるまで炊き上げる
【組み立て・仕上げ】
※下準備
・澄ましバター(分量外)を準備しておく
1. 一枚の生地をとり、扇型にカットする。カットした下の部分は、中央にのせる
2. 上部に澄ましバターを少量塗る
3. 細かい生地の余りを中央に平らに置く
4. 澄ましバターを中央に数滴おとす
5. もう一枚分の生地を、中央に置く
6. ドーシュ・デ・オボシュを置く
7. 上に置いた生地だけを掴み、上→右→左の順で、包む
8. 澄ましバターを塗る
9. 7と同様の手順で、外側の生地も包む(接続部分を上にしておく)
10. 澄ましバターを塗る
11. サイドを折り込んで、形を整える
12. 上火 300° 、下火 225° のオーブンで15分焼成する
13. 粗熱が取れたら、粉糖をまぶして……
……そして、できあがり〜!!
なるほど、澄ましバターを丁寧に塗った効果が出ていて、焼き上がりの照りも美しい〜♪
美術の授業
見た目も特徴的な「パスティシュ・デ・テントゥガル」ですが、長すぎたり厚すぎたりすることなく、どれも一定して絶妙なバランスが保たれています。
「パート・フィロ」のカットする大きさから、包むときの力の入れ具合、「ドーシュ・デ・オボシュ」の量、そして最後にバランスよくサイドの生地を持ち上げるまで、それぞれが何気ない作業にみえて、実際は熟練の技がなければ、この美しいフォルムは再現できません。
国語の授業
「パスティシュ・デ・テントゥガル」が生まれたのは、まさにここ、テントゥガル村。そう、このお菓子の名前はそのまま「テントゥガル村のお菓子」…という意味なのです。
16世紀頃から、テントゥガル村にあるモンテ・カルメロ修道院で作られたのが始まりで、今ではポルトガルを代表する郷土菓子の一つに数えられています。
ちなみに、「パスティシュ・デ・テントゥガル」に限らず、ポルトガルの郷土菓子の多くは修道院から生まれたもの。なぜ修道院からお菓子が誕生したのか?そしてなぜ、今回も使用した「ドーシュ・デ・オボシュ」をはじめ、卵黄がふんだんに使われるのか?
それは、前編の「ポルトガルならではの郷土菓子って?」の章をご覧下さい♪
社会の授業
「パスティシュ・デ・テントゥガル」で最も特徴的なのが、なんといっても、まるでトレーシングペーパーのような薄い生地「パート・フィロ」が使われているということ。
現代では世界中の料理や製菓に幅広く使われていますが、ギリシャ語で「木の葉」を意味するこの生地は、元々はギリシャ・中東が発祥とされ、6~7世紀頃にイスラム勢力によってヨーロッパ諸国にもたらされたといいます。
そしてその後、修道院で考案されることとなった「パスティシュ・デ・テントゥガル」……小さな村で生まれたお菓子ひとつとっても、その背景には壮大な歴史の潮流があるのですね。
理科の授業
「パスティシュ・デ・テントゥガル」の最大の魅力である、パリパリとした食感の秘密は、前述の「パート・フィロ」にあります。小麦粉と水のみを材料としていて、油分が入らないため、焼成することで軽い食感が得られるのです。
そして何よりも驚きだったのが、このパート・フィロが手作りだったということ。現代では機器の発達によって、既製品が市場に多く出回り、また、それを使用するのが一般的になっていますが、ここでは今なお伝統的な製法で一から手作りしているのです!
特筆すべきは、生地をカットする前後の工程。出来る限り薄く綺麗に仕上げるために、作業場いっぱいに生地を大きく伸ばします。
油分が無く、柔らかく破れやすい生地を一気に伸ばすのは至難の業。さらにそれを、扇風機とガスバーナーで水分量を調整しながら、素早くカットしていくというのだから、まさに職人技です!
郷土菓子レッスンを終えて……
実際に一緒に作らせてもらった、出来立ての「パスティシュ・デ・テントゥガル」をパクリ!
中に入った「ドーシュ・デ・オボシュ」の量と甘さが丁度よく、さらに、飾りに使われがちな粉糖も味のバランスを調整するのに一役買っていて、この美味しさは病みつきになりそう♪
でも、なんといってもポイントは「パート・フィロ」! 幾重にも重ねられた薄い生地が、パリパリとしたほど良い食感で、バター入りの一般的なパイとは一味も二味も違った魅力があります。
「パート・フィロ」は、いまや市販のものが簡単に手に入る時代。それにも拘らず、わざわざ店舗にパート・フィロ作り専用の作業場を設け、職人さんたちはそこで、最高の生地を仕上げることに切磋琢磨している。
まさかこんな小さな村で、何世紀も前に生まれた郷土菓子を、今なお伝統的な手法で作り続けている人々がいただなんて……ポルトガルのお菓子大国たる所以を、垣間見ることができたように思います。
まるで宝探しのように、地図もない村をあてもなく歩き、そして発見することのできた郷土菓子ストーリー。でも、私が覗いた世界は、ごくごく一部に過ぎません。未だ見ぬ郷土菓子ストーリーが、ポルトガルにはきっと、まだまだ眠っているはずです。
“旅するパティシエ” 鈴木あや
広尾のパティスリー、ペニンシュラホテルのフレンチレストランなどで修行を積んだ後、会員制レストランにてシェフパティシエに就任。「国と国、人と人とを つなぐスイーツ・ストーリーテラー」になることを目指し、2016年1月から各地の郷土菓子を発掘する世界一周の旅に出発。
●ウェブサイト
旅するパティシエ, 旅する本屋