世界一周!郷土菓子レッスンの旅 in エルサレム
こんにちは! 2016年から世界の郷土菓子を巡る旅に出た、“旅するパティシエ”鈴木あやです。
目標は、「国と国、人と人とをつなぐスイーツ・ストーリーテラー」になること。世界中で現地の人々から郷土菓子レッスンを受けながら、レシピだけでなく歴史・文化・暮らしと、立体的にその地域の魅力を発信していきます。
前回は、中東・エルサレムでの、郷土菓子「グレイヴ(Ghraybeh)」の突撃取材の模様をお伝えしました。
今回はエルサレム旧市街のパティスリーでの、郷土菓子レッスンの模様と共に、【中東の郷土菓子】ストーリーをお届けします!
「グレイヴ」の郷土菓子レッスン、スタート!
家庭科の授業
今回先生を務めてくれたのは、アデルさん。エルサレム旧市街のムスリム地区で、35年前にパティスリー「アルアセール・スイーツ(ALASEL SWEETS)」をオープン。
現在では、家族や親戚とお店を切り盛りしながら、エルサレム旧市街に3店舗のパティスリーを構えるほどの人気店に。そんなわけで今回は、アデルさんファミリー勢揃い(一番左がアデルさん)の、賑やかな郷土菓子レッスンとなりました!
グレイヴのレシピ
グレイヴの材料(約15個分)
- ショートニング(無塩バター代用可)…100g
- グラニュー糖 …100g
- 薄力粉 …200g
- バニラパウダー …適量
- 食用色粉(黄色)…適量
グレイヴの作り方
1. ショートニングとグラニュー糖を、空気を含ませるように混ぜ合わせる
2. 振るった薄力粉・バニラパウダーを加え、最後に適量の水で溶いた食用色粉で、好みの色にする
3. 手でひとまとめにする
4. 棒状に分けて、好みの大きさにカットする
5. ひとつひとつ、捻りながら成形していく
6. 中央に、ピスタチオを飾る
7. 170度に予熱したオーブンで、約10分焼成する
……そして、底面に少し焼き色がつく程度になったら、できあがり〜!!
バニラの優しい香りが、厨房だけでなく店内中に広がっていきます♪
美術の授業
食用色粉でほんのりお化粧をほどこし、カットした棒状の生地を、両手で捻るという作り方のグレイヴ。
その一連の作業を、ものの数秒で仕上げていく妙技は、ほれぼれするほどお見事!それはまさに、和菓子職人の匠の技を彷彿とさせます。
理科の授業
グレイヴは元々、イスラム教における「お供え物」としての役割を果たしてきた郷土菓子です。
そのため、日持ちすることが前提になっていることから、油脂には、焼き菓子によく使われるショートニングを使用。無味無臭で、動物性バターに比べると風味などは劣りますが、水分がなく、酸化しにくいという特徴があります。
また、グルテンの組織形成を阻害しやすいので、噛んだときに脆く、サクサクした食感を生みます。
国語の授業
「グレイヴ(Ghraybeh)」という名前の由来については、お店の方をはじめ、エルサレムで出会った人々に手当たり次第質問を投げかけたものの、なんとその答えにたどり着くことはできませんでした…。
明らかになったのは前述のとおり、古くはイスラム教における「お供え物」として重宝された郷土菓子であるということ。現代では家庭で日常的に楽しまれていて、特にムスリムの人々にとっては非常に身近な存在なのだそうです。
中東ではハルヴァをはじめ、古代メソポタミアの時代にすでに誕生していたとされる郷土菓子が、現代まで受け継がれています。そう考えると、もはや名前の由来など誰も知らないという方が、当たり前なのかもしれませんね…!
社会の授業
グレイヴのレシピは、「粉」「砂糖」「油脂」のみを使った、これでもか!…というほど、非常にシンプルなもの。そしてそれはまさに、世界各地のどんな焼き菓子においても、基本中の基本となる材料なのです!
ちなみに、11世紀の十字軍のエルサレムへの遠征を経て、中東からヨーロッパへと多くのモノ・コトが伝わりましたが、その中の代表的なものの一つが「砂糖」。瞬く間に人気を博した砂糖は、ヨーロッパのお菓子文化が花開く、起爆剤にもなったといわれています。
これはあくまで憶測ですが、この時に伝わったのは単に砂糖だけでなく、実はフランスなどの焼き菓子のルーツに、グレイヴの存在が深く関係していたのかもしれませんね。
郷土菓子レッスンを終えて……
実際に一緒に作らせてもらった、出来立てのグレイヴをパクリ♪ 素朴で優しい味わいは、まるできな粉を食べているようで、どこか懐かしさすら覚えるお菓子です。
ここまで、ヨーロッパのお菓子が伝わった中南米、スイーツ文化を世界中に広めたヨーロッパ……と、お菓子の歴史を逆引きするように旅を続けてきて、ようやく辿り着くことのできた、終着点の中東。
もし本当に、世界中のお菓子のルーツが中東にあるとすれば、この瞬間私は、和菓子の原点に出会うことができたのかもしれません。
郷土菓子のタイムトラベルを経て、パティシエとして、なにか技術以上に大切なものを得ることができたような気がした、今回の郷土菓子レッスン in エルサレムなのでした。
“旅するパティシエ” 鈴木あや
広尾のパティスリー、ペニンシュラホテルのフレンチレストランなどで修行を積んだ後、会員制レストランにてシェフパティシエに就任。「国と国、人と人とを つなぐスイーツ・ストーリーテラー」になることを目指し、2016年1月から各地の郷土菓子を発掘する世界一周の旅に出発。
●ウェブサイト
旅するパティシエ, 旅する本屋