カリブ版ミルフイユ!? キューバの郷土菓子「セニョリータ」を首都ハバナで作ってみた♪【“旅するパティシエ”世界一周!郷土菓子レッスンの旅】

世界一周!郷土菓子レッスンの旅 in キューバ

こんにちは! 2016年から世界の郷土菓子を巡る旅に出た、“旅するパティシエ”鈴木あやです。

目標は、「国と国、人と人とをつなぐスイーツ・ストーリーテラー」になること。世界中で現地の人々から郷土菓子レッスンを受けながら、レシピだけでなく歴史・文化・暮らしと、立体的にその地域の魅力を発信していきます。

前回は、首都ハバナでの、キューバの郷土菓子「セニョリータ(Senorita)」の突撃取材の模様をお伝えしました。

b01

今回は、「パステレリア・ドン・ファン(Pasteleria Dong Fang)」のオーナーシェフであるミゲル(Miguel)さんによる、郷土菓子レッスンの模様と共に、【キューバの郷土菓子】ストーリーをお届けします!

「セニョリータ」の郷土菓子レッスン、スタート!

b02a

家庭科の授業

まさか社会主義国家のキューバで、パティスリーの厨房に潜入できるなんて!…と、興奮を抑えきれぬまま、ついに「セニョリータ」の調理実習が始まりました!

セニョリータのレシピ

セニョリータの材料(一般家庭で作りやすい分量)

―フィユタージュ・オルディネール(折込みパイ生地)―

薄力粉 …1kg
塩 …10g
マンテカ(ラード)…50g
※溶かしておく
冷水 …500g
無塩バター …700g

―カスタードクリーム―

牛乳 …300g
バニラ …1/4本
卵黄 …3個分
グラニュー糖 …80g
薄力粉 …30g

―ココア味のイタリアンメレンゲ―

卵白…4個分 + グラニュー糖…20g
水…50g + グラニュー糖…130g
ココアパウダー…8g

―ブラックチョコレート― 適量
※サラサラに溶かした状態

セニョリータの作り方

1. 小麦粉、マンテカ、塩と水を順番に合わせて、ひとまとめにする。最後にまとめた生地は40分以上、冷蔵庫で寝かす。

b03

2. 冷蔵庫から出した無塩バターを、1と同じくらいの硬さに、平らに伸す。

b04

3. 1に空気を入れないように、2を包む。

b05

4. 三つ折り×2回を2セットに加え、四つ折り1回を行う。※各40分以上冷蔵庫で寝かす。

b06

5. しっかりと層になった生地を、最後に薄く伸ばして、200°のオーブンで5〜6分焼成する。

b07

6. パイ生地の粗熱が取れたら、 3枚にカットする。

b08azz

7. カスタードクリーム(※注1)を挟み、三段に重ねる。

b08b

8. ココア味のイタリアンメレンゲ※注2を薄く塗って、溶かしたチョコレートで模様を描き、表面を少し乾かす。

b09

9. 好みのサイズにカットする。

b10

※注1  ーカスタードクリームー
卵黄とグラニュー糖を白っぽくなるまで混ぜ、薄力粉を加え、バニラで香り出しした牛乳で炊く。

※注2  ーココア味のイタリアンメレンゲー
卵白と117℃のシロップでメレンゲを作り、ココアパウダーを合わせる。

 

……そして、できあがり〜!!

a15

数時間かけて、何度も折り込んで作るパイ菓子の完成…その喜びはひとしおです!!

 

国語の授業

スペイン語で、“お嬢さん”といった呼びかけや女性の敬称に使われる言葉、「セニョリータ/Senorita」。

なぜこのお菓子にそのような名前が付けられたのか、キューバ滞在中、誰に聞いてもその由来はわからず、残念ながら不明のままでした…。

b12

ただ、一つわかったのは「セニョリータ」という名前は、ここキューバでは、ミルフイユ風のお菓子の総称として使われているということでした。

社会の授業

旧宗主国がスペインのキューバにあって、なぜフランス発祥のスイーツであるミルフイユがこんなにも定着しているのか?

それは、フランスから独立を果たした隣国・ハイチからの流入をはじめ、19世紀から20世紀の間にキューバにやってきた移民の中には、スペイン人のみならずフランス人も多くいたのだとか。

b13

事実、キューバ中央部南岸の都市・シエンフエゴスなど、19世紀にフランス人入植者によって拓かれた街もあります。そのため、彼らの影響でキューバ版のミルフイユ、つまり「セニョリータ」が浸透していったと推測されます。

理科の授業

「セニョリータ」のパイ生地は、基本的なバター折り込み手法である、「フィユタージュ・オルディネール」を守って作られます。

b14

油脂と生地がしっかりと層になっていることと、高温・短時間で焼成することで、生地が高く持ち上がり、よりサクサクとした食感を生み出します。

美術の授業

パイ3枚にカスタードクリームをサンドするという、ベーシックなミルフイユのスタイルを踏襲する「セニョリータ」。

b15

ミルフイユには様々な飾りつけがされることが多いのですが、やはりこの点もミルフイユと同じように、カカオメレンゲとチョコレートで丁寧に装飾をします。

郷土菓子レッスンを終えて……

実際に一緒に作らせてもらった、出来立ての「セニョリータ」をパクリ!

b16z

さくさくのパイとカスタードクリームの黄金コンビが、絶妙な味わいを生み出すことはもちろんのこと、ほどよい甘さに仕上げるのは、まさにミゲルさんの職人技。元祖・ミルフイユにも、負けず劣らずの美味しさなのです!

b17z

今回一緒に作らせてもらった「セニョリータ」が“美味しかった”という事実は、他の国で感じるそれ以上に、特別な意味をもっています。

b18a

2008年、キューバが部分的に市場経済の導入を始めた頃、オーナーシェフであるミゲルさんは、「手に職をつけなければ!」と思い立ち、製菓学校に通いパティシエの道へ。そして2010年に自営規制緩和が始まったとほぼ同時に、「パステレリア・ドン・ファン」をオープンしました。

b19

しかし、市場競争が生まれつつあるといっても、変わらず食料配給制が採用されている、あくまでも社会主義国家のキューバ。

例えば街中で手軽に売られているパンひとつとっても、慢性的な小麦粉不足のため、純・小麦粉を使ったものなどは非常に珍しく、とてもじゃないけど美味しく頂ける代物ではありません。

b20z

前述のレシピを見て頂ければわかるとおり、必要な材料は惜しまず使い、時間と手間をしっかりかけて一から作り込むというのは、ミゲルさんの職人然としたこだわり。

このこだわりは、パティシエにとっては当たり前かもしれませんが、キューバという国の中でそれを維持し続けること、そして“美味しい”スイーツを作り続けることが、どれだけ困難な道のりだったことか。

物資にも環境にも恵まれた私たち日本人にとっては、きっと想像もできないような苦労が、そこにはあったはずです。

b21a

オープンしてから5年。今ではパティシエ2名、販売員2名を雇用するまでに成長した、ミゲルさんのパティスリー。彼らの働きぶりを見ていると、ミゲルさんの職人魂がしっかりと受け継がれているのがよくわかります。

そして、その中のパティシエの一人が、私に夢を語ってくれました。

DSC_0068b

「いつか、パティシエとして海外で活躍したい。そして日本にも行ってみたいんだ!」

キューバ人の彼がそれを本気でそれを叶えようとするならば、越えなければいけないハードルはあまりにも多すぎて、現実としては難しいと言わざるを得ません。

それでも彼の真っすぐな瞳には、「私も負けてはいられない!」と焚き付けられるほど強い力が、確かに宿っていました。

b23a

まさかキューバで、“職人の在り方”を立ち返ることになるなんて……。

目まぐるしい世界情勢と共に変わりゆくキューバで、国境を越えても変わらないパティシエの姿に出会うことができた、今回の郷土菓子レッスンなのでした。

“旅するパティシエ” 鈴木あや

広尾のパティスリー、ペニンシュラホテルのフレンチレストランなどで修行を積んだ後、会員制レストランにてシェフパティシエに就任。「国と国、人と人とを つなぐスイーツ・ストーリーテラー」になることを目指し、2016年1月から各地の郷土菓子を発掘する世界一周の旅に出発。

●ウェブサイト
旅するパティシエ, 旅する本屋