文化人類学者 山口未花子さんに聞く!カスカ族の「贈与文化」に学ぶ、お金やモノに支配されない暮らし|KitchHikeインタビュー第10弾[後編]

こんにちは。KitchHike編集部ライターの岩井です。

インタビュー前編「「食べられ」に来るヘラジカ?カスカ族に弟子入りした文化人類学者 山口未花子さんに聞く「贈与」と「共有」の食文化」では、文化人類学者・山口さんが北米先住民「カスカ族」にたどり着くまでと現地でのエピソードについてお伺いしました。後編では、カスカ族の食スタイルや、山口さんの活動の原動力について、じっくりお話を伺いたいと思います。

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前編にも掲載した、ヘラジカを狩ったときの一枚。ヘラジカは大きいものだと800キロを超えるそうです。
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現地で実際に暮らしながら調査をしていた山口さん。現地でどんなごはんを食べていたのか、気になります。

カスカ族の「贈与」な食生活とは?

– 山口さん (以下、敬略)

狩猟採集民族として暮らしている彼らは、食生活においても”贈与”の考え方をもっています。つまり、みんなでシェアする文化ですね。特に大きな動物を採ってきたときは、独り占めなんて絶対しないです。集落のみんなで平等に分けて食べますよ。

ケンカとかにならないんですか?

– 山口

ならないですよ。贈与経済の中で暮らす狩猟採集民族は、お金やモノによって誰かを支配したりされたり、ということがありません。そんな彼らにとって一番大切なことが「平等規範」なんです。

ともとは、採ってきた食材が保存できないために、その場で平等に分配してきたという歴史があります。最近は冷蔵庫もありますが、やっぱりシェアする文化は消えないですね。シェアしたり、みんなで食卓を囲むことで、いい人間関係が築けることを彼らも知っています。

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集落の皆で食料をシェアしあって食卓を囲む「団らん」の風景を見てみたいです。

シェアする文化あってこそ、今もなおカスカ族の歴史を繋げてるんですね。

– 山口

そうですね。彼らは、「知識さえあれば、モノはいつでも作ることができる」という考えをもっています。つまり、モノの作り方を知っているから持ち運びも保存も必要ないというわけです。だからこそ、採ってきた動物もみんなで分けます。

そうしていると、自分がうまく狩猟できない時でも、他の誰かから分けてもらえますしね。こういった考えを人間関係の基本として暮らしてきたからこそ、生き延びてこれたといっても過言ではないかもしれませんね。

彼らこそ、本物のノマドですね。かっこいいです!ちなみに現地ではどんな料理を食べるんですか?

– 山口

お祝いごとなどがあれば、集落のみんなを集めて、たくさんのブッシュフード(採れた動物など森の幸)を食べます。一度、ヘラジカの頭の丸焼きをいただきました。丸3日くらいかけてじっくりローストしたおもてなし料理です。普段日本で食べる焼き肉でもたくさんの部位があるように、彼らにもそれぞれの動物で人気の部位があります。彼らの間では、結構油っこい部位が人気だったりしますね(笑)。

また、狩猟した人が特権的に食べられる部位もあります。例えば、横隔膜。ヘラジカを解体してすぐであれば、あぶるだけで食べられます。私もいただきましたが、ほのかに甘い味がして美味しかったですよ。

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ヘラジカを3日じっくりローストする様子。ごちそうの一つだそうです。

山口さんの活動の原動力とは?

ちなみに現地にはどれくらい滞在したんですか?

– 山口

大学院生の頃から、もう10年は通い続けていますね。通算で700日以上は滞在しています。

10年も通い続けているとはすごいですね!原動力って、どこにあるのですか?

– 山口

とにかく動物が好きという気持ちが一番大きいです。好きという気持ちから、動物と人間の関係を知りたいという気持ちが芽生えました。そしてそれを知るためには、現地の人と一緒に生活を通して体験しないとわかんないだろうなと思ったので、気づけば10年通っています(笑)。

子供のころ、自分は動物と会話できるって思っていたんです。でもそれを周りに言うと嘘つき扱いされちゃうんですが、カスカ族は逆です。動物と会話できるってすごいことだね、と尊敬される文化なんです。こういう彼らと動物の関わり方を知るにつれて、どんどん興味は深まっていきました。

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狩猟の様子。現地の古老から、狩猟の基本を教わったり、動物に対する考え方や想いなど、色々なお話を伺ったそうです。
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冬に集落には、たっぷりと雪が降り積もります。

 

山口さんの興味、とどまることを知らないですね…!

– 山口

カスカ族と動物の秘密を解き明かしたい!という欲求があると、やる気や知恵が出てくるものです。あとはもう、前に進むだけ(笑)。諦めずにやりつづけてこれたのは、やっぱり”欲望”とまで言えるほどの、強い気持ちがあったからですね。

欲望のまま突き進む…とてもかっこいいです!

諦めずにやりつづけるってなかなか難しいと思います。

– 山口

試行錯誤の連続ですが、好きなことであれば、とにかく諦めないで前に進めばいいと思うんですよね。たとえそれが思っていたことと違う方向に行ったとしても、前に進めば興味もどんどん増していきます。当然、時間もかかりますが、それは考えないようにしています(笑)。

というより、とにかく動物が好きだ、もっと知りたいという欲望のおかげで時間は忘れることができます。また、通っていた中学高校がちょっと変わっていて、テストがなかったんです。好きな教科を突き詰めることもできたので、義務で勉強していたというより、自分の好きな勉強ができました。周りに強制されることがなかった思春期をすごしたので、欲望のままに生きる大人になってしまいました(笑)。

 

結果よりもプロセスに価値がある

効率化がどんどん進む昨今、「わざわざ現地に行って、人と一緒にごはんを食べる」KitchHikeは、その対極にあると思っています。

– 山口

知らない外国人のお宅でごはんを食べるって、一見めんどうだなっと思うかもしれませんが、そのプロセスにある価値があるんじゃないかな。私も一直線に研究者をやってきた人間ではなく、欲望の向くままにうろうろして、今にたどり着きました。うろうろしていたプロセスなくして今はないと思っています(笑)。

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困難も沢山あったと思いますが、インタビュー中、終始笑顔でお話してくださる姿をみて、動物が好きだからこそ、困難も楽しめるパワーをお持ちなのだと感じました。

結果はプロセスあってこそということですね!ちなみに、はじめての人やコミュニティに入り込むコツってありますか?

– 山口

相手の価値観や考え方をなるべくインプットすることを心がけています。特に現地調査を行うときは、なるべく邪魔にならないように、相手を最大限尊重します。そうしていくうちに、相手も心を開いてくれますし、だんだんと仲良くなれますね。

KitchHikeでも、ただごはんを食べるだけだと緊張しちゃいそうですが、ごはんを通して、その国や文化を知れる機会になりますし、聞いているうちに、興味も深まっていきそうですよね。

では最後に、KitchHikeマガジン読者の皆さんにメッセージを!

– 山口

私の経験上、好きなこと、興味がわくものがあれば、まずは前に進むことが大事なんだと思います。途中、きっと困難はたくさんありますが、そこで諦めてしまうのではなく、できる方法を見つけようともがくと、案外見つけられるものです。計画をたてることも大事ですが、計画倒れするより、自分の心が赴くままに突き進んでみてください!

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ご自身の経験から話される言葉はとても強いですね。聞いていて、なんだか勇気をもらえた気がします。

 


インタビューはここまで!いかがでしたでしょうか?

大好きな動物を求めて北米先住民「カスカ族」と生活をともにした山口さん。気づけば10年も通い続けているそうですが、その道のりにはたくさんの困難があったといいます。けれど、「とにかく動物が大好き。もっと知りたい!」という気持ちが原動力になり、今まであきらめずに研究を続けてこれたそうです。

優しい笑顔からは想像がつかないほどの、濃いお話をお伺うことができました。私もなんだか、背筋がピンっと伸びた気がします!山口さん、どうもありがとうございました!