MBAを取得した青江覚峰氏がビジネスを辞めて仏門を叩くまで。|インタビュー第6弾[後編]

こんにちは、KitchHike編集部のリチャード&ユミです。

インタビュー前編では、料理僧になった理由やきっかけをお聞きすることができました。今日の献立もすべて完成したところで、インタビュー再開!

後編では、アメリカでMBAを取得してバリバリとビジネスをしていた青江氏が、なぜお寺を継ぐことになったのか?仏門を叩くことになったのか?そのきっかけの出来事と苦悩の日々についてお聞きしました。青江氏が遭遇した転機とは一体なんだったのでしょうか?

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青江覚峰 プロフィール: 1977年東京生まれ。浄土真宗東本願寺派 湯島山緑泉寺住職。米国カリフォルニア州立大学にてMBA取得。料理僧として料理、食育に取り組む。ブラインドレストラン「暗闇ごはん」代表。超宗派の僧侶によるウェブサイト「彼岸寺」創設メンバー。ユニット「料理僧三人衆」の一人として講演会「ダライ・ラマ法王と若手宗教者100人の対話」などで料理をふるまう。
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いよいよ完成!精進料理につき、色味が抑えめかと思っていましたが、繊細な色がとても映える美しい食卓になりました。
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お櫃に入ったトウモロコシご飯をよそってくれた青江氏。正座と伸びた背筋にこちらも居住まいを正します。

生きる意味を問われた出来事「9.11」

– KitchHikeマガジン編集部 (以下、太字)

跡継ぎになることを拒んでアメリカに渡り、ビジネスまでしていたのにどうして和尚さんになることを決意されたのですか?

– 青江覚峰さん (以下、敬称略)
9.11のテロがきっかけですね。9.11が起きたとき、僕はアメリカにいたんです。実際に起こっている事だって、最初は信じられませんでした。本当に衝撃的でした。ちょうどその当時はビジネスでお金を稼ぐことにすごくやりがいを感じていた時期で、今後のビジョンも持って毎日働いていました。

でも、9.11がきっかけで、ビジネスに限らず、すべてにおいてモチベーションがなくなってしまって。当時通っていたバーのマスターに愚痴ったりしていました。あまりにもひきずっていたので、怒られちゃったこともありましたね (笑)。「生きづらさ」や「やりづらさ」を感じるようになってから、今までの人生とか、いろいろと振り返る時間が増えました。

「生きる意味」を問うきっかけになったのですね。

– 青江
それで、「仏教って何だろう?」って。改めて思うようになったんです。やっぱり、お寺に生まれたこともあって、自分を語る上で仏教は切っても切り離せない関係ですし。今まで仏教に対して背を向けてばっかりだったわけですが、これをきっかけにとことん向かい合おうって決意したんです。

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僧侶の友人も一緒の準備を手伝います。20畳以上ある大きな和広間です。
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お茶碗の底には「緑泉寺」の文字。

僧としての生活をビジネスマン時代と比較してみる

ちなみにお坊さんって、誰でもなれてしまうものなんですか?

– 青江
なれるものだと思います。むしろ、なるのはそこまで大変ではないと思います。僕の場合は帰国した後に築地にある東京仏教学院という学校で仏教について学びました。それまでまったく興味が無かったのに、いざ学んでみると案外面白いんだなって思いました (笑)。自分の一生を賭けて、全力で仏教に関わって生きていこうって決意したんです。

それまでの生活と大きく変わった点はありましたか?

– 青江
お坊さんの何が大変なのかって言うと、他者の目線が無い中で、まるで他者の視線があるかのように振舞うことをしなければならないことですかね。修行中や学校に通っているとき、誰かしら仲間だったり先生だったりが周りにいました。作業を協力したり、他人の目線があるからこそ緊張感を持って励むことができたのが、お坊さんになってお寺に帰ったとたんにその生活が一変したんです。

他者という存在が無い中で、どれだけ忠実にやるべき事をやり遂げるかが難しいですね。

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いただきます、の時は手を合わせます。
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トウモロコシごはん。ほのかな甘味と優しい味わい。おかずいらずでバクバクと食べてしまいました。
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揚げ物の綺麗な仕上がりと美しい器の相性に目を見張ります。

「料理僧」青江覚峰だからできること、したいこと

毎日はどのように過ごされているのですか?

– 青江
今年10月でお寺が400年目になるので、最近は祭典の準備などで忙しいですかね。ちなみに僕は14代目にあたります。他にも、仏教と一般の人を繋げるようなwebサイトの運営だったり、お寺でのイベントを企画したりもしています。

由緒正しい、伝統のあるお寺なのですね。すこし変わった経歴を持っていることで、周りからの視線が気になったりすることはありますか?

– 青江
周りの人からは「いろいろやっているね」という声がかかることもあります (笑)。どういう意図なのか、様々とは思いますが。ただ、その人たちの本心がこっちとしては汲み取れないので、そういう声かけをもらったときはいつも「ありがとうございます。」と言っています。

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青江氏が共同運営するインターネット寺院「彼岸寺」。仏教に関する様々な情報をは発信しています。
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青江氏主催のイベント「暗闇ごはん」。真っ暗闇の中でごはんを食べることで味覚が鋭敏になるんだとか。

「お寺らしさ」っていうレッテルは皆さんの中にあったりするかもしれないですけど、過去はもうどう頑張っても変えられないものです。自分はこのような経歴を持っているから、注目を集めることができる。だからこそ、いろいろな新しいことをつまみ食いするのではなく、自分軸に沿って行動することが大切だと思います。

青江さんだからこそできることを自由にやっていく、と。

– 青江
僕よりもたくさん勉強している人も、知識を持っている人も、修行を詰んでいる人も周りには多くいらっしゃって、正直僕は中途半端な立ち位置かもしれません。だから、僕がしたいこと、できることは、とにかく多くの仏教を知らない人々に仏教への入り口を作って、広めていくことだと考えていますね。

「使命感」や「しなければならない」という意識ではなく、「楽しんでやる」ことが自分のモットーですね。僕の中で、その「楽しい」は、ただの快楽的な「fun」ではなくて今後につながっていくような発見や成長といった深さのある「interesting」です。

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仏教会における自身の立ち位置を客観的に認識している青江氏。軽やかな判断や活動がとても魅力的です。
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赤味噌仕立ての味噌汁。たっぷりきのこの風味がたまりません。
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トマトの漬物とほうれん草のおひたし。精進料理ではありますが、色使いが豊かです。

では、最後にKitchHikeにコメントをお願いします。

– 青江
お寺にいらしたすべての方に、僕は常に全力で対応しています。そこで思うのが、新しい人やモノとの出会いがたくさんの発見をもたらしてくれるということ。そして、その出会いが社会を突き動かしていくということです。KitchHikeは、人と人をつなぐものだと思うし、そこでの出会いは金銭などでは表しきれないほどの価値があるはずです。料理を通して新しい人と出会い、自分と違った文化を知ることはきっと何かにつながっていくと思います。

人それぞれ顔が違えば性格も違うように、持つ文化も背景も違っています。そして文化の数ほど、それぞれの食卓が持つ味も変わってくるものです。KitchHikeを通してより多くの皆さんが新しい発見をして、今の生活の見え方が少しでも広がったらいいなと思いますね。

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青江氏の著書『お寺ごはん』。自身で作られたお寺ごはんのレシピが載っています。

 

インタビューはここまで!いかがでしたでしょうか?

ビジネスマンから料理僧への華麗なる転身。いや、実際にお話を伺ってみると青江氏の苦悩の日々と前を向く真摯な姿勢が伝わってきました。人生の転機にどこで巡り合うのか、転機と捉えるにはどうしたらいいのか。自身だからできること、を追求することの大切さ。おいしい精進料理をいただきながら、普段はあまり見ない観点を教えていただけた気がしました。

これを機に仏教を少し勉強してみようかな?と素直に思った編集部一同。料理が仏教を知るきっかけになったことは確かです。青江覚峰さん、今回はどうもありがとうございました。ごちそうさまでした!