ソマリの「ラクダ肉のぶっかけ飯」がおいしかった!? ノンフィクション探検作家・高野秀行さんに聞く辺境の食卓 | KitchHikeインタビュー第11弾 [後編]

こんにちは。KitchHike編集部ライターの山田です。

インタビュー前編「日本は「納豆後進国」?ノンフィクション探検作家・高野秀行さんが語る、アジア辺境に生息する「納豆民族」」では、探検家・ノンフィクション作家の高野さんに、アジアの辺境に生息する納豆民族や、納豆の知られざる魅力などについてお伺いしました。後編では、辺境で食べてきた家庭料理や、現地の人との交流、そして、死に直面!? したドキドキのエピソードなどについて、じっくり伺いたいと思います。

高野さんが辺境に目覚めたきっかけは何なのでしょうか?

– 高野さん (以下、敬称略)
子どもの頃から、謎や、未知のものが、ものすごく好きでしたね。高校生の時はムーを愛読していたし、ピラミッドは宇宙人が作ったとか、インディ・ジョーンズとか、ありましたよね。

好奇心でいっぱいの少年のような雰囲気を時折見せる高野さん

好奇心でいっぱいの少年のような雰囲気を時折見せる高野さん



時に過酷な体験もあったと思いますが、もう探検をやめたい……と思ったことはなかったんでしょうか?

– 高野
マラリアで倒れたり、襲撃されたり、大変なこともあったけれど、僕、すぐ忘れちゃうんですよね。いいことばっかり記憶に残ってる。で、また現地に行くと思い出すんですよ、前回ここで大変なことがあったなあって (笑)。

何度でも同じ過ちをおかす、それが辺境ノンフィクション作家の資質かもしれないですね (笑)。記憶力があんまりあるとよくない。……全然、いい性質ではないと思うけど (笑)。

すごい発想の転換ですね (笑)。これまでで一番「まずい!!」と思った、さすがに忘れられない瞬間を教えてもらえますか?

– 高野
南部ソマリア取材で戦車に乗っていたら、いつのまにか最前線に連れて行かれてしまって、最後に襲撃されたときでしょうか  (『恋するソマリア』)。同行の地元ジャーナリストも直前まで気が付かなくて、不可抗力でした。

最初は「前線に連れてこられてしまった」と被害者意識でいっぱいだったけれど、「俺が来たかったのは、こんなところだったんじゃないか?」と、ふと気づきまして。絶対来られないようなところまで来た、という感覚は感動的でしたよ。地元の生活も見られたしね。ずっとここに居たいなって (笑)。

ちょっと、もう、ふつうの感覚ではないですね (笑)。

– 高野
いつも取材に協力してくれるソマリの友人たちとは、今もよくやりとりしていますよ。来月も、ソマリを再訪します。

さっき、ソマリの新聞社にいる友人 (『謎の独立国家ソマリランド』のワイヤッブ氏) から、「ちょっと今月苦しくて、助けてくれ」ってメールが来ていたので、今日はこのあと送金に行きます……こうなると仕事でもなんでもないなあ (笑)。

ご友人がいらっしゃることもあり、ソマリの話をとても楽しそうに教えてくださいました。

ご友人がいらっしゃることもあり、ソマリの話をとても楽しそうに教えてくださいました。



ソマリ社会に溶け込んでらっしゃるということですね。高野さんにとって、「ソマリの味」といえばなんでしょう?

– 高野
ソマリで一番好きなのは、「ラクダのぶっかけ飯」ですね。ラクダのくず肉を細かくしたものを煮て、レタスをちぎって、煮汁もかけて、最後にライムをきゅっと絞る。これが、最高にうまいんですよ。

ソマリでも一番安い飯なもんだから、地元のソマリ人の友達は「他のものも食べようよ……」って(笑)。日本で言えば毎日牛丼食べてるようなもんだから。味も牛丼みたいな感じです。

こちらが「ラクダのぶっかけ飯」。ライムも添えてあってとってもおいしそうです。

こちらが「ラクダのぶっかけ飯」。ライムも添えてあってとってもおいしそうです。



「ラクダのぶっかけ飯」ですか!日本で食べるのは相当難しそうですね。

– 高野
肉体労働者や村の人はラクダを食べますが、町の人はヤギを食べますね。さっぱりしたヤギ肉に比べると、ラクダ肉は、むちむちして濃い味。そういえば、日本ではヤギ肉を臭いと言うけれど、ソマリでは全く臭くないんですよ。ソマリには冷蔵庫がないから、早朝にヤギをつぶして、その日のうちに食べ切るからですね。

ソマリのホテルで朝食に出てくるのが、ヤギのレバー炒めにカフェオレ (笑)。朝つぶしたヤギを、ピーマンや玉ねぎと一緒に塩コショウで炒めるだけ。最初見たときは、「え?朝からレバー炒め?」と思ったけど、ものすごく爽やかな味でいけるんですよ。

ソマリのホテルで食べたヤギレバーとカフェオレの朝食セット

ソマリのホテルで食べたヤギレバーとカフェオレの朝食セット



朝からレバーはすごいですね!カフェオレとの組み合わせも、なんとも…… (笑)。辺境に憧れる読者に向けて、高野さんおすすめの「辺境の家庭料理」はありますか?

– 高野
本来、辺境の民は、食事にこだわらないことが多いんです。料理は、王様や金持ちの商人がいたり、食材が豊富だったりする地域で発展するものなので。でも、ミャンマーのシャン人と、旧オスマントルコ帝国のクルド人だけは例外です。

シャンは、「誰でも行ける辺境」なんですよ (笑)。麻薬問題や紛争などいつもトラブルがあるから日本には全然紹介されない。でも、旅行者が入れる地域は安全です。ガイドブックにも載っていますよ。

シャンの食卓って、日本みたいなんです。納豆、餅、豆腐、高菜が丸いちゃぶ台に乗っている。よそのお宅に遊びに行くときは、漬物、豆腐、納豆を手土産に持っていくと、お茶とおかきが出てきたりね。

失われた昔の日本が見たかったら、シャン州に行くのがいい (笑)!何を食べても懐かしくほっとする味です。

そのシチュエーションは、本当に古き良き日本のようですね。行ってみたいです!

– 高野
そのほかにも米の麺にどろどろした豆腐を掛けた「豆腐ウン」という麺料理があるんですが、すごくおいしいんですよ。日本は絶対にない料理だけど、日本人が食べるとグッとくる。僕の日本人の友達、10人中10人がうまいと太鼓判を押しました。

「辺境家庭料理」でいくと、あとは旧オスマン帝国エリアのクルド人ですね。旧オスマン帝国は美食で名高いですが、なかでもクルド人は群を抜いています。イスタンブールでトルコ料理を出しているのも、クルド人が多いんですよ。薄焼きピザを注文すると、粉持ってくるところから始める (笑)。最初はため息ついてたけれど、「待っててよかったな」って思うほどおいしかったです。

こだわりが強いんですね。クルド人が美食とは知らなかったです。

– 高野
あと、トルコにワン湖という、猫で有名な湖がありまして。あ、猫なのにワン (笑)。まぁ、それは、いいか。

「ワンキャット」っていう猫がたくさんいるんですが、両目の色が違って本当に可愛いんですよ!で、ここの朝食が、世界一うまいんです。朝飯セットが売っているわけじゃないんだけど、市場に行って、焼きたてのパン、地元産のはちみつ、ハーブ入りのチーズ……と買い集めて、みんなで茶屋に行って食うんです。

全部、作りたてで地元産ですからね。こんなうまい朝飯あるか!ってくらいうまいですよ。本当に。

高野さんが世界一と称するトルコの素敵な朝食

高野さんが世界一と称するトルコの素敵な朝食



「辺境版 世界一の朝食」は、シャンの豆腐麺、ソマリのレバー&カフェオレ、トルコのワン湖で決定ですね!(笑)

逆に、これまで、どうしても食べられないものはなかったのでしょうか?

– 高野
一番最初に、コンゴ探検に行ったときあらゆるものを食べたので、食べられないものはないですね  (『幻獣ムベンベを追え』)。コンゴの長距離バスに乗っていると、後ろの席から謎の燻製肉がまわってくるんです。で、何の肉なの?と聞くと、猿だよと。

日本でも、田舎のバスに乗っていると、煎餅やみかんがまわってくることがあるでしょう。同じなんでしょうね (笑)。「はい、どうぞ」って、隣の人からまわってくるから、そのまま一囓りして、また隣にまわすんです。

猿の燻製肉ですか……!味の想像がまったくつきません。

– 高野
僕の場合は外国人だから、「きっと食べないだろう」ってみんな見ている。だから、がぶっと噛んでまわすと、「おまえはちょっと違うな!」「おまえはコンゴ人だ!」なんて、車内がすごく盛り上がりますよ。

現地の環境では平気で食べられても、日本では食べられないものはありますね。日本の建物は清潔でにおいがしないから、少しでもにおいがあるものを持ち込んでくると食べられないかな。

外国でも、市場では食べられたのに、ホテルに持って帰ると急に食べ物に見えなくなっちゃうことがありますね。なんだこりゃ、と。虫とか、無理ですね (笑)。食べる「場」が一番大事なんでしょうね。特に、僕は場に溶け込むタイプですので。

何を食べるかは、どこで食べるかが大事ということですね。ちょっとKitchHikeっぽい感じがします。

– 高野
食へのこだわりがない地域もありますよ。ミャンマーのアヘン栽培の村 (『ビルマ・アヘン王国潜入記』) は、まず、とにかく食材がない。野菜は、小ネギかニラのようなものしかなくて、それ以外の野菜、例えばジャガイモ、トマト、人参みたいなものはまったく食べないです。

あと、ニワトリはいるのに、卵を食べるということを知らないんですよ。「卵を食べたらニワトリが育たない」なんて言っている。

彼らが食に興味がない、というと語弊があるかな。彼らは純粋に、ニラ雑炊が好きなんですよ。三食ひたすらニラ雑炊を食べているのが幸せみたいです。出稼ぎや戦争で村を離れていた人が帰ってくると、喜んでニラ雑炊を食べていますからね。特別な時は肉も食べるけれど、それも、ニラ雑炊に入れます (笑)。

彼らのすぐそばに住んでいるシャン人は、納豆を始めあらゆるものを食べて食へのこだわりが強いんだけど、民族によって全然違いますよね。

ミャンマーの東部、ワ州に暮らすワ族の料理「ニラ雑炊」

ミャンマーの東部、ワ州に暮らすワ族の料理「ニラ雑炊」



お話を伺えばうかがうほど、辺境の食卓を体験してみたくなりました。とはいえ、辺境に行くのもなかなか難しいですし、日本で気軽に再現できるものはないでしょうか?

– 高野
そうですね、僕は、ソマリで料理を習ってきたから、自宅で作って在日ソマリ人にふるまうことがありますね。「なんで俺がソマリ人にソマリ料理を食べさせるんだ!普通は逆だろ!」って思うんですけど (笑)。

早稲田大学に通っている在日ソマリ人の留学生が我が家に何日か滞在した時、ヤギの炒め物とヤギのスープを作ってあげました。新大久保のパキスタン人の店で、オーストラリアから輸入してきた骨付きヤギ肉を買ってきて。

コリアンダーとかタイム、パクチーを添えるといいですね。彼が、「高野家は最高だなあ!ソマリ料理が食えるし、ソマリ語も通じる」なんて言っていて、「ここはソマリの飛び地かよ!」って (笑)。

でも、なかなか海外で食べたものを再現するのは難しいですよね。技術も食材も。

高野さんが場に溶け込むきっかけは、やはり食を共有することなんでしょうか?

– 高野
そうですね。日本人も、外国人が家に来て、おいしいおいしいって和食を食べてくれるとうれしいじゃないですか。どこの国でも同じですよね。現地の人と仲良くなるには、現地の食卓を囲むことが一番。

昔は料理に特に興味がなかったけれど、五年前に家事をするようになってから、海外に行った時も料理に関心を持つようになりました。

外国では、だいたい客人の応対をするのは男性で、女性と交流する機会は一切ない。特に中東は、そもそも女性と会って話すこともできない地域だから、「台所で料理を習いたい」なんて言ったら「こいつ何を言ってるんだ?!」と言われますね。

ソマリランドでは、幸いにも台所に潜入することができました。取材協力者のオフィスが入居している建物の管理人さん一家の台所に入れてもらいました。

僕が、「これなに?おいしい?切る?煮る?どっち?」なんて片言のソマリ語を話すから、女性は僕を子どものように感じてくれたみたいで。「これはこうするのよ。」なんて、管理人さんの奥さんが嬉しそうに指導してくれました。

国によっては、女性を取材すること自体が難しいんですね。

– 高野
女性にとって台所は、自分らしくいられる場所なんですよね。普段は夫の陰に隠れているけど、台所に入るといきなり堂々と振る舞います。料理を作る過程から一緒に過ごしているから、食べるときにも話が弾むし、距離が一気に縮まりますよ。

やっぱり、地元の料理、家庭の料理を食べないと意味がないですね。地元の市場に行くとか、親しくなった人に作ってもらうとか。レストランは、対象が外国人やお金持ちだから、地元の味から離れています。

レストランで食べられるものはレストランに行けばいいから、KitchHikeは家庭の料理を食べに行けるのがいいですね。いろいろ話を聞いたりね。

そう言っていただけると嬉しいです。ありがとうございます。では、最後にKitchHikeにコメントをお願いします!

– 高野
KitchHikeに登録されている色々な食卓のメニューを見ていて、ジャマイカの家庭料理とか食べたいなあと思いました。あと、作る人のプロフィールや情報を見てから選べるのがいいですよね。

僕は、現地の人に溶け込むのに、現地の言葉を覚えることが多いんですが、辺境では「こんにちは」なんて言わないんです。村ではみんな、しょっちゅう顔を合わせているから、村の中で会っても「こんにちは」なんて言う必要ないでしょう。だから「おいしい」から覚えるんです。

通訳を通さずにダイレクトに言うと、やっぱり喜ばれますよ。特に、作り手に直に伝わりますから。作り手は、食べた人が「おいしい」と言ってくれることがおいしいし、それを受け入れてもらえて食べた人も「おいしい」でしょう。「おいしい」って、二重の意味でいい言葉ですよね。

高野さんの話を聞いて、「おいしい」という言葉は人と人とをぐっと近づけるのだと改めて思いました。

高野さんの話を聞いて、「おいしい」という言葉は人と人とをぐっと近づけるのだと改めて思いました。



KitchHikeを通じて、国や文化を超えた「おいしい」の場をたくさん生み出していきたいと思います。どうもありがとうございました!




インタビューはここまで!いかがでしたでしょうか?

辺境を、そして究極を求めて冒険を続ける高野さん。子どものころからお持ちの未知への好奇心は今後もさらなる辺境へ導くのかもしれません。

常人にはなかなかできない冒険譚を聞いているうちに不思議と小さな冒険から始めてみたいという気持ちにかられました!高野さん、まるでドキュメンタリードラマのような貴重なお話をありがとうございました!