【新連載☆第9回】探せ!人生の味のごはん | スリル満点!〝Airbnb〟in アマゾン

こんにちは、KitchHike編集部です。

KitchHike Magazine読者にはおなじみの料理人、太田哲雄さんの連載が始まりました!講談社発行の月刊文庫情報誌「IN☆POCKET」との合同企画。毎月1回発行の原稿をKitchHike Magazineでも掲載していくことになりました。

太田さんのインタビュー記事を読んでみよう♪

  1. 世界中で修行を重ねた太田哲雄シェフの映画のような半生!「エル・ブジ」からアマゾン料理まで|インタビュー第4弾[1/3]
  2. 土着的なものの先にこそクリエイティブがある!ミラノのプライベートシェフを経てペルーの砂漠村へ渡る太田哲雄シェフ|インタビュー第4弾[2/3]
  3. ペルー最高峰のレストランから、食材の原種を辿るべくアマゾンへ!料理をめぐる太田哲雄シェフの冒険譚最終章|インタビュー第4弾[3/3]
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ペルーでの料理修業を終えた太田哲雄は、 念願のアマゾンへと旅立った。 パリやロンドンで「現地の生活を体験したい」なら、 民泊事業〝Airbnb (*注1)〟を利用すればいい。 しかしアマゾンには、まだそんなサービスは存在しない。 粘り強い交渉の結果、体験した現地生活とは!?

構成・文/今泉愛子 写真/太田哲雄
イラスト/仲 琴舞貴






ペルーの国土の60パーセントを占めるアマゾン。そもそも日本の三倍以上の面積を持つペルーだから、ペルー領内のアマゾンだけでも日本の2倍以上ある。アマゾン全体は日本の20倍だ。

「アマゾンへ行く」のはいいが、一体どこを目指せばいいのか。リマで何人かのペルー人に「アマゾンに行く」と話をしたら「遠いよー」「1人で大丈夫なの?」とほとんど他人事。リマで暮らす人たちにとってアマゾンは、アンデス山脈を超えた遥か彼方にある別世界なのだ。

僕はまずイキトスを目指すことにした。ガイドブックによれば、「アマゾンの玄関口」となっている。きっと僕のような旅行者もたくさんいるだろう。

川に囲まれた町だから、陸路から入ることはできない。リマからはバスと船を乗り継いで行くか、飛行機を利用するか。バスと船だと4、5日かかる。僕は飛行機で向かった。

空港に降り立った瞬間から、今回の旅は「半端ない」雰囲気を漂わせていた。これまで体験したことのない迫力の暑さ。空港は、空港というより農作業所のようで、威厳も警戒感もまったく感じさせない。

【地図】ペルー

【地図】ペルー


アマゾン最大の市場を探検

イキトスの町は混沌としていた。僕が真っ先に訪れたのは、ベレン・アルタ地区にある、アマゾン最大の市場だ。治安が悪いスラム街にあり、旅行者はなるべく近寄らないほうがいいと聞く。だけど、「この世のすべてが揃う」と評判の市場を、素通りできるはずがない。

ここに限らず、僕は旅先でもよく市場に足を運ぶ。どんな食材が売られているのかを見るだけでも楽しいし、売り手の多くは生産者で、質問にしっかりと答えてくれるのもいい。

ベレンにものを売りにやってくるのは、アマゾンの住民たちだ。アマゾン川の上流からも下流からも、船に食材を載せてどんどんやってくる。数キロにわたって続く屋台には、体長三メートルもあるピラルク、陸ガメのモテーロ、さらにピラニアやナマズが並ぶ。その脇では、泥だらけの地面にまな板を置き、ナタを振り回してワニをさばくおばちゃんもいる。

野菜やフルーツも豊富だ。色とりどりの唐辛子、アサイー、ココナッツ。バナナロードと呼ばれる一角に、バナナが長い茎ごと並んでいるのは壮観だった。

イキトスのベレン・アルタ地区。

イキトスのベレン・アルタ地区。



騒がしい声のする方向に歩いて行くと、生きている鴨や鶏がカゴのなかで買われるのを待っている。つながれている豚も売り出し中だ。

もちろん料理もある。バナナの葉っぱで包んで炭火焼きにしたナマズ、野豚のソーセージ、カピバラ (*注2)の肉を加工したハム。どれもじつに美味しそうだ。

ここでは、子どもも大人も老人もイキイキと働く。なかでも子どもたちは実にたくましく商売をする。自分たちの生活に直結しているのだろう。痛々しさは微塵も感じさせない。

生きたまま売られて行く動物たちを「かわいそう」と感じる人もいるかもしれない。だけど、スーパーで売られている肉だって元は生きていた動物たちのものだ。

自分たちの手で殺めた動物の肉を、まだ温かいうちに料理していると、むしろ命をいただいていることに感謝の念が湧く。皮も内臓もすべて生活の糧とする暮らしが残酷だとは思えない。

どこの市場も朝がもっとも活気がある。ベレンも例外ではない。野菜やフルーツがもっともたくさん揃うのは朝だ。しかしここには、〝夜の顔〟もある。法律で禁止されているサルやアルマジロ、ネズミの仲間パカなどが売買されるのは、警察官たちの見回りのない夜なのだ。アルマジロは、甲羅を下にして燻製にするように火を入れるとすごく美味しいらしい。サルのスープが好物だという人もいた。

僕は、深夜にも足を運んでみた。電気が通っていないから、辺りは真っ暗だ。見回してみると、闇のなかで物音がする。誰かが料理を食べているのだ。誰がどんな料理を作るんだろう。まさに深夜営業のレストランだ。

片隅に光る2つの眼はサル。これから売られて行くのか、それとも料理されるのか。どこかで何者かがひそひそと話をしている。怪しげなものの売買も行われているのかもしれない。

ここを歩くと、人間の貪欲さやたくましさを実感する。食べることと生きることは、こんなにも近い。

市場の中にある〝バナナロード〟。

市場の中にある〝バナナロード〟。



川魚の炭火焼きには、同様に焼いたバナナも添える。

川魚の炭火焼きには、同様に焼いたバナナも添える。



アルマジロも売られている。

アルマジロも売られている。



ソーセージの屋台。

ソーセージの屋台。


アマゾンツアーをオーダーメイド

アマゾンツアーの手配は、イキトスに着いてからと考えていた。いつもそうなのだが、僕は見知らぬ町へ行く時も、事前に詳しく調べたりはしない。現地でしかわからないことがたくさんあるからだ。
この時も手配してあったのは、リマからイキトスまでの航空券だけ。到着した当日に泊まる宿すら決まっていなかった。

町には旅行会社がちらほらあるようだった。どこも目玉商品は、アマゾンツアー。これなら何とかなりそうだと思ったのだが、現実は甘くなかった。何軒まわっても僕の希望するようなツアーを提供している会社がないのだ。

人気は、ホテル形式のロッジに宿泊し、ガイドに付き添われカヌーで川下りをしたり、果樹園を散歩したりと、旅行会社がイベントを用意するツアー。あるいは、アヤワスカという幻覚作用のある薬草でのトリップ体験を目的としたツアー。ペルーでアヤワスカは違法ではないのだ。ただしトラブルは多い。オーバードースの状態になり、命を落とす旅行者も少なくないようだ。

僕の希望は、アマゾン住民と日常をともにすること。今、流行りのAirbnbみたいに現地の人たちの家に泊まり、現地の暮らしを体感したい。狩りや釣りに行き、彼らと一緒に料理することがこの旅の一番の目的なのだ。ところが僕は、訪れた全ての旅行会社で門前払いをくらった。詳しく説明しようとしても話を聞いてもらえないのだ。面倒で金にならない客なのだろう。

中央が、歯抜けのおじさんの舟。

中央が、歯抜けのおじさんの舟。



途方に暮れ、今夜のホテルだけでも確保しようと歩いていると、知らないうちに裏通りに入っていた。

真っ先に、僕の目に飛び込んだのは、旅行会社の看板だった。オフィスをのぞくと男が1人で暇そうにしている。お世辞にも儲かっているとは言えない雰囲気だ。さっきまでの旅行会社とはずいぶんと様子が違うが、世間話でもするつもりで奥に進み、アマゾンツアーのことを聞いてみた。

「僕は、現地の人の家に泊まりたいんです。ホテルじゃなくて」

「いいね。できるよ!」

「狩りもしたいし、現地の人と一緒に料理もしたい」

「OK!」

「それから……」

彼は最後までしっかりと僕の話を聞き、「大丈夫。オレに任せとけ!」と胸を張った。
いささか安請け合いという気がしなくもない。メモだってとっていなかった気がするし……。

「ところでテツ、今晩泊まる場所は決まっているのか?」

「いえ。まだです」

「それなら、ホテルもオレに任せて。朝、迎えにくるから」

彼が案内してくれたのは、オフィスの裏にある物置のようなところに、ベッドを置いただけの部屋だった。人の気配は一切しない。これをホテルと呼ぶのは、かなり無理があるだろう。辛うじて鍵はかかった。シャワーらしきものもある。

ツアー代金は、往復の交通費と食費、宿泊費すべて込みで200ドル。

これでいいだろう。高いか安いかはわからないが、こんなギリギリの状況で出会ったのも何かの縁だ。

アマゾン川を北上開始!

翌朝、僕は旅行会社の男とともに舟に乗り、アマゾン川を北上した。1時間ほどした頃だろうか。舟を降りて、川岸の村に立ち寄った。釣り糸と釣り針を買いたいと言っていたのを覚えていてくれたのだと安心したところで、ぬっと現れた裸足のおじさん。

旅行会社の男は、「あとはよろしく」と帰ってしまった。どういうこと? あっけにとられた僕に、ニッと笑いかけたおじさんには、前歯が1本もなかった。話をしようにもフガフガ言っているようにしか聞こえない。一体僕はどうなるんだろう。

川には、オンボロの舟が浮かんでいた。モーターはついているもののさっきまでの舟より1ランクも2ランクも落ちた感じ。しかもせっせと漕いでいると、足元にどんどん水がたまっていく。

ヤバい! このままでは沈んでしまう。僕はせっせと水をかき出した。

「あとどれくらいで着きますか?」

「どこに向かっているの?」

何を聞いても、彼はニッと笑ってフガフガ言うだけ。

僕はどこかに売り飛ばされるのではないか。そんな不安が押し寄せてくる。1時間、2時間、3時間。だんだんお腹もすいてきた。

それを伝えると、おじさんは、網を張って魚を捕まえている子どもたちの方に舟を寄せて、魚を購入。「これがお前の晩ごはんだ」と言って僕にくれたが、調理道具もスパイスもないのに、どうやって食べろと?

アマゾン住民たちと暮らす

そうこうするうちにようやく集落らしきところが見えてきた。おじさんとともに1軒の小屋に向かう。中には1人の女性がいた。おじさんは、彼女に僕を託すと、とっとと去って行った。

魚を手に途方にくれる僕。奥さんも事態が飲み込めていない様子。これがラウル家との出会いだった。

「電話で何か聞いていませんか?」と聞くと、ちらっと電話の方を見て首を振る。視線の先には、神棚のようなものがあり、旧式の携帯電話が鎮座していた。周囲には何本もの釘が打ち付けられ、針金が物々しく張り巡らされている。聞けば、電波が入るのは1日1回あるかないか。釘と針金は、貴重な電波を入りやすくするための工夫だった。

すべてを悟った僕は、あらためてやりたいことを説明した。奥さんもなんとか理解してくれたようだった。ホッと一息ついて小屋のなかを見回す。ここはどうやら台所のようだが、床は、ほとんど水没している状態だ。天井から吊るされたハンモックは、何かの弾みでくるっとひっくり返ったら水にドボンだろう(後日、本当にそうなった)。

奥さんは、黒いペットボトルを僕に差し出した。ウェルカムドリンクといったところか。早速いただこうとしたのだが、よく見るとなかには、ウーパールーパーみたいなものが浮いている。「健康にいい」らしいのだが、僕はまだ、それを飲む勇気はない。
「喉が渇いていないんです」と断ったら、次は自家製のフルーツドリンクを勧められた。ところが大きな容器には、黒いものが動いている。

ラウル一家の子どもたちが住む小屋。

ラウル一家の子どもたちが住む小屋。



アリだ。彼らはせっせと容器を登り、ドリンクのなかに入って、泳いで、縁から出ていく。長い行列は途切れることがない。しかし奥さんはそんなことお構いなしにコップにジャバジャバ注いでアリごと飲む。子どもたちも同様だ。どうやらここでは、それが常識らしい。僕は、アリ入りフルーツドリンクを一気に飲み干した!

ラウル家の住居は、小屋が3棟あった。それぞれが細長い木の板1枚で繫がっている。もう1つの小屋は子どもたちの寝場所兼野菜置き場。ここはさすがに床が高く、水没は免れていた。天井には洗濯物が干してあるが、この湿気ではほとんど乾かないだろう。そもそも干し方もかなり適当で、日本人のように1枚1枚をていねいに広げて並べたりはしていない。

残る1つの小屋では、だんなさんがウンウンうなされていた。彼は僕が来る何日か前、毒ヘビに嚙まれたらしく腕が腫れ上がっていたが、深刻な感じではない。

夜は、子どもたちやペットのナマケモノと一緒に雑魚寝した。子どもは万国共通で寝相がスゴい。寝ていると何者かがどんどん侵略してくる。僕の横にいるのは、子どもなのか、ナマケモノなのか。ぶつかってくるのは足なのか頭なのか……。

ちなみに、子どもの数には諸説(?)ある。何人かの子どもはイキトスで学校に通っているらしいのだが、奥さんは「子どもは全部で14人」という。ところが村の人たちは、「あそこのうちは15人だよ」と言うのだ。「でも奥さんが……」と僕が言うと「忘れてんだよ」とあっさり。僕は何人でもかまわないが、忘れるものなのか、というモヤモヤはどうしたって残る。

奥さんは、とても優しい人だ。ただし、これまで僕が出会った女性とはまるで違っている。僕がいても平気で子どもに乳を飲ませるのは仕方ないとして、10人以上の子どもを育てた乳は伸びきっていて、授乳中でも服のなかにおとなしく収まってはいない。「見ない」という選択肢は存在しない状況だった。

アマゾンの日常体験

アマゾンでどうしてもやりたかったのは、料理と狩りだ。僕は、毎日奥さんとともに台所に立った。初日は、僕が持っていった魚をコリアンダーと玉ねぎ、唐辛子とともに軽く煮た、潮煮のような料理だった。使う食材は、限られている。魚とバナナ、キャッサバ、鶏の卵、たまに肉、そして炊きたてではないご飯。変化はあまりない。バナナは揚げ焼きにすることが多かったが、すりおろしてスープにとろみをつけるのに使うこともあった。

アマゾンは食材の宝庫というが、毎日もぎたてのフルーツが自動的に届くわけではない。冷蔵庫がないから食品を保存することができないし、市場も近くにない。毎日の食卓は控えめに言ってもかなり質素だった。必然的にそうなる。

だけど、ここでの暮らしを単純に豊かさという尺度で語ることはできない。暮らしが生きることそのものだからだ。

僕が訪れたのは雨季だったから、何度となくスコールを体験した。雨と呼べるような生易しいものではなく、滝に打たれているかのような勢いで空から水が降り注ぐ。

東京のように建物が立ち並ぶ街なら雨やどりもたやすいが、アマゾンではそういう訳にはいかない。

道はすべて水没しているから、出かけるときは舟を使う。ラウル家は、モーターのついた舟を持っていなかったから、ちょっと出かけるにも一苦労だった。

釣りや狩りに出るのは夜が多い。手漕ぎボートで遠出する時は3人1組が基本。流れの激しいところでは、誰か1人でも怠けるとたちまち流されてしまうから、みんな必死だ。細い木が茂ったところは、小枝をかき分けながら進む。目が慣れていない僕は何も見えないが、毒ヘビ、毒グモがうようよいるような場所だ。「気をつけろ」と言われても、気をつけ方もわからない。僕は毎日ヘトヘトになりながら過ごした。

しかもお腹の調子は、初日から最悪だった。ペルーで暮らし始めた当初もひどいものだったが、それを大きく上回る勢いで、何を食べても出てしまう。

それに加えて、喉が痛み始めた。奥さんに伝えたら、「一緒にハチミツを探しに行きましょう」と言う。2人でジャングルに入り、ハチの巣を探す。

僕たちが普段目にするのは、ミツバチの巣箱だ。あそこには、ハチミツがたっぷりとある。ところがアマゾンにあるハチの巣には、それほどたまっていない。ハチは自分たちに必要な量がわかっているのだ。巣箱は、養蜂家にとっては効率のいい仕組みだが、ハチにとってはブラック労働ではないのか。そう考えると、味も違ってくるような気がする。

アマゾンの人たちは自分たちが必要な分だけ、ハチに分けてもらうという感覚でいる。僕も奥さんと一緒に、ハチミツと花粉をごく少量、採って帰った。花粉は、ほんの一なめしただけで、毛穴がぐわっと開くような感覚に。これは大量になめたらヤバいだろう。ハチミツは、なめているうちにスーッとからだになじんでいく。しばらくすると喉の痛みは消えていた。

手漕ぎボートで僕を案内してくれた、動体視力抜群の親族。

手漕ぎボートで僕を案内してくれた、動体視力抜群の親族。



この数日間、僕を案内してくれたのは、ラウル家の親族の男性だった。彼は、孤立部族 (*注3) の出身だが、中学に上がるくらいの年齢の時、おばあさんから「ここにいても稼げるようにならない。出たほうがいい」と言われ、イキトスの学校に通ったのだという。だから読み書きができる。

彼には、奥さんと子どもがいる。家族はイキトスで暮らしているが、彼は、アマゾンが好きなのだと言う。
「家族や友だちに会えないし、テレビもないのに?」と聞くと「ここには、なんでもあるじゃないか」と誇らしげだ。動体視力が抜群で、夜の狩りでは動物の鳴き真似をしておびき寄せたり、威嚇したりもする。あらゆる身体能力が高くて、一緒に狩りに出たのが彼でなかったら、僕は、もっと危険にさらされていただろう。

狩りに出ても彼は、決して森や川を無闇に傷つけたりしない。若い木や大木を倒したりはせず、釣り上げた魚が自分の欲しい魚でなければ、川に戻す。

そんな彼は、アマゾンの生態系を憂えていた。森林伐採や動物たちの乱獲、水位の高さ。明らかに自分が子どもの頃とは様子が違うという。

僕がアマゾンの環境問題に関心を持つようになったのは、彼との出会いが大きい。

僕は結局、ここに3泊した。2泊したところで「そろそろ帰りたい」と伝えたら、「電波が立ったら電話してみるね」と言われ1日くらい待たされた。スコール続きでなかなか電波が立たなかったのだ。翌朝ほんの一瞬、電波が立った時にすかさず電話をかけたが「日本人が帰りたいと言っている」と言った瞬間に電波は切れた。伝わったのか、伝わっていないのか不安なまま待っていると、夕方になって迎えの舟がやってきた。

初めてのアマゾン滞在は、あらゆる常識をくつがえす体験だった。

僕はイキトスに出る乗り合い舟で、村人たちとともに川を下った。

シャワーの栓に感動!

イキトスに戻った1日目は、からだがふわふわとして普通の感覚ではなかった。ホテルでシャワーの栓をひねった時、軽く感動する自分がいた。「ひねる」という行為自体が久しぶりだったのだ。ベッドで寝ることがこれほど安らかなことだとは知らなかった。

イキトスで2泊して、なんとかリハビリが完了。僕は、リマへと戻った。

僕はこれまで3度、アマゾンに入っているが、いま振り返ってみてもこの時がもっとも無謀だったろう。地図を見ても自分がどこにいたのかはっきりとはわからない。ラウル一家と再び会うことも難しそうだ。

だけど「アマゾン」は、僕に強烈な印象を残した。この第1回目があったから、僕のアマゾン通いが始まったのだ。

次回は、2度目のアマゾン。カカオ村との出会いについて紹介したい。




プロフィール: 太田哲雄(おおた・てつお)

1980年長野県生まれ。19歳で渡伊。帰国後、料理人を志して都内のイタリアンレストランで修業。2004年に再び渡伊。星付きレストラン数店を経て、スペインやペルー、そしてアマゾンの奥地まで、料理人として世界を渡り歩く。

注❶ Air bnb 個人が所有する家を旅行者に貸し出すための仲介サービス。ホテルに宿泊するよりも地元に密着した過ごし方ができると評判。スタートから八年で、すでに世界各国三万四千以上の都市でサービスを提供している。

注❷ カピバラ アマゾンに生息する、体長1.1〜1.3メートルくらいの四肢で立つ動物。ぽっちゃりとした見た目は豚のようだが、じつはネズミの仲間。

注❸ 孤立部族 アマゾンで暮らす人たちの多くは、すでに現代文明の影響を受けているが、ごく少数ながら、現代文明との接触を避けている部族も存在している。ペルー南東部にある、マヌー国立公園付近で生活するマシコ・ピロ族が有名。

IN☆POCKET

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